第三回目は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) の塩村賢史氏より「アセット・オーナーから始まる投資バリュー・チェーン」をテーマにお話しいただきました。
第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、今回は投資家(アセット・オーナー)に当たります。
講義では主に以下に関して説明がありました。
- GPIFの紹介とインベストメントにおける位置づけ
- インベストメント・チェーン最適化に向けた取組み
- GPIFのESGに関する情報開示
- ESG投資を巡る足元の環境変化と今後
まず、日本の公的年金制度やESG投資の重要性についてわかりやすく説明された動画(注1)等により、少子高齢化に対応した賦課方式による世代間扶養をGPIFが超長期(100年)にわたって安定的に支えるための組織であることが示されました。
続いて、投資のバリュー・チェーンにおけるGPIFのアセット・オーナーとしての位置づけについて、その特徴と制約について紹介されました。
GPIFは世界最大のユニバーサルオーナーです。投資先がほぼ全世界に及び、170兆円を超える規模の年金であるがゆえに、アクティブ運用のような良い会社だけを選んで投資する手法は取り難く、パッシブ運用という全体に投資をすることで、経済成長の果実に対して投資をするスタンスをとっています。
一方で、その影響力を鑑みて制約も設けられています。もっぱら被保険者の経済的利益につながるESG投資の実施という位置づけであり、インパクト投資やダイベストメントは現行の法律に基づいてできません。公的機関として、個別銘柄の選択や個別企業に対して、直接議決権行使をすることは禁じられており、運用資産は(一部の国内債券を除き)運用会社に委託しています。代わりに、運用会社による企業エンゲージメント行動を求めており、運用会社の評価に反映しています。また、ESG指数提供会社にも企業との対話(特に国内企業に対して)を求めています。
この一年における大きな変化も紹介されました。コロナ禍において、一番関連が想像される「社会」課題への認識だけでなく、環境やガバナンス分野においてもコロナ以前に比べて重要と認識する投資家が増えていると紹介されました(ISS ESG調査)。また、コーポレート・ガバナンス・コードの中でTCFDに沿った開示を促す改訂案、カーボン・プライシング議論の国内での進展など、この一年での大きな変化が見られます。GPIFとしては、毎年開示している「ESG活動報告書」(注2)に加えて、「GPIFポートフォリオの気候変動リスク・機会分析」(注3)が発行されていることも紹介されました。
最後に、ESG投資以前に年金制度に対する理解や基本的な金融リテラシーが不足している事により、正しい議論や理解が進まないことが課題として挙げられ、教育システム、日本の株式市場の低迷、など、受講生と共にその原因と解決策に関して議論も行われました。
注1:ESG図解
※授業の内容は個人的な見解で話されており、組織を代表しているものではありません。
※執筆担当…岡田 敦(JSIF運営委員)