早稲田大学大学院の講座「サステナブルな事業/投融資の探求」#11

第十一回目は、CSRデザイン環境投資顧問の田邉佳人氏より「不動産:『住』から広がるESG」をテーマに講義していただきました。

第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、運用会社、評価機関、アドバイザーに当たります。

講義では以下の点に関して、ご説明をいただきました。

  • 不動産における「環境」の課題 グリーンビル認証
  • 生活者目線から見たグリーンビルディング
  • 不動産を通じた「社会」の課題解決

はじめに、田邉氏よりCSRデザイン環境投資顧問のご紹介や、不動産とサステナビリティとの関係についてお話いただきました。エネルギー消費とCO2排出量のうち、3~4割が建物由来のものであり、したがってエネルギー消費が不動産業界として取り組むべき主要な課題の一つであることが冒頭で説明されました。

グリーンビルディング認証や評価には、国内外でスタンダードになっているものがあります。個人や消費者にとっては、まだあまり馴染みが無いかもしれませんが、機関投資家が投資するポイントになっています。各国の法規制や主要な認証の紹介に加え、米国では大企業が自社ビルをグリーンビルディングにした事例、また欧州では、サステナビリティ・リンク・ボンドでグリーンビル認証を取得する店舗数を掲げる企業の事例があることが紹介されました。また、RE100やSBTというグローバルな動向もあり、トータルのエネルギー消費量をゼロにする建築物(Zero Energy Building/House)が注目されているということも挙げられました。

次に、グリーンビルディングの収益性に着目しました。米国の研究機関や企業の研究では、グリーンビルディングの賃料・入居率・売却価格は高いという結果、日本でも認証がある物件は賃料が高くなる、という分析をご紹介いただきました。国内でもこうしたグリーンビルの財務的影響を投資判断に織り込む動きがJリートや不動産セクターでメインストリーム化するのではないかと言われている点の解説がありました。

不動産運用や管理の立場から生活者やテナントの立場に視点を変え、建物利用者から見たときに、グリーンビルの価値をどう享受できるのか、どの様な軸でオフィスや住居を選ぶのか、受講生間でディスカッションが行われました。その結果、現状では情報が限られており、グリーン認証取得の有無を選択のポイントとする優先順位は高くないのではという意見も多く寄せられました。

「グリーンビルディング」と言えば気候変動対策など環境面をイメージしますが、最近では社会課題への対応への着目が増えています。不動産を通した社会課題の解決として、UNEP FIによる「ポジティブ・インパクト金融」の考え方が紹介されました。それを踏まえ、国交省からも、わが国で不動産投資がもたらすインパクトが期待される側面として、気候変動、健康・快適性、地域社会・経済、災害対応、超少子高齢化への対応が挙げられています。

例えば、海外のAffordable Housingという貧困層や低・中所得層向けの住宅の供給にフォーカスしたESG投資があります。具体的に挙げられたのは民間資金を活用したインドのスラム街の再開発です。途上国の課題と思われがちなAffordable Housingですが、日本も例外ではないことが問題提起されました。都内のホームレスと都市開発の問題を例に、開発を行なうほど不動産の価格が高くなり、手が届かなくなる人も生まれ、都市の価値の一部でもある多様性が損なわれてしまう、という課題に対して、どの様に都市開発と多様な生活者の居場所のバランスを保つべきか、ディスカッションが進みました。

生活に欠かせない「住」ですが、利用者が意識して選択するための知識が不足していること、利用者が選択出来るような(認証取得住宅のラベリングなど)仕組みが必要なこと、アセット・オーナーがサステナブルな不動産を選択しやすい法整備など、受講生との議論の中で様々な課題を発見する場となりました。

※執筆担当…亀井茉莉(JSIF個人会員) 編集:岡田敦、御代田有希、岸上有沙

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