早稲田大学大学院の講座「サステナブルな事業/投融資の探求」#12

第十二回目は、三井住友トラスト・アセットマネジメントの手塚裕一氏より「移」から広がるESGをテーマに講義していただきました。

第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、運用会社に当たります。

講義では主に以下に関して、説明がありました。

  • 「移」から広がるESG事例
  • 運用会社としてのESGへの取り組み

まず前提となる運用会社の役割と各ステークホルダーとの関係が整理されました。

製造、オペレーション、燃料、インフラが「移動」を支えており、生活基盤、経済活動基盤として社会との関連性が高いといえます。

産業別マテリアリティを紹介した後、自動車、海運、航空、物流、鉄道の輸送モードごとに、着目するESG課題についての説明がされました。

例えば、気候変動問題に関連して、運輸部門の中でも自動車での移動および物流が二酸化炭素(CO2)の排出を多くしているため、優先的に対処すべきといえます。

低炭素社会への移行手段として期待されているEV車ですが、車両製造時のCO2排出量が多く、各国のエネルギー事情によっては電力エネルギー製造時のCO2排出量も多くなります。このため、走行時のみならず、発電・製造から廃棄を含めた企業のライフサイクル・アセスメント上のCO2排出量や環境負荷の確認が必要である点やサプライチェーンがグローバルかつ複雑なため人権リスク、規制リスクなどを考慮する投資家の視点が説明されました。

将来的な規制等による電源構成の変化等に合わせた車種選び、資源を大切に使うこと、カーシェアなど、多様な課題解決へのアプローチがあることが指摘されました。そのなかで、投資家として、社会課題解決と事業との両立が重要である点が強調されました。

続いて、海運について、何を燃料とし、何を運ぶのか、誰が運ぶのかという点、経済の豊かさへの貢献と負の外部性について説明されました。また、航空について代替燃料の課題、安全運航の重要性についても紹介がありました。物流についても労働環境改善に向けた従業員エンゲージメントの重要性などの課題が取り上げられました。

最後に、鉄道会社に対して、4つのマテリアリティを踏まえた具体的なエンゲージメントの事例に触れられました。企業側からは、投資家の目線を踏まえたうえで社内での話し合いに繋がっているとの声が聞かれるとのことです。

このように、「移」というと、ESG投資との結びつきでは環境(E)がイメージされますが、実際には気候変動をはじめとした環境課題以外にも、安全、人権、人的資本、生物多様性、海洋汚染など多くの環境社会課題が「移」に繋がっていることが指摘されました。

後半では、運用会社としてのESG投資の取り組みが紹介されました。

当社の企業理念は、「未来の可能性を拓き、真に“豊かな”社会を育む」です。当社では、国際的イニシアティブとの連携も実施する中でESGの専門家として活動するスチュワードシップ部門と、企業分析のプロであるリサーチ運用部門の協働で行われています。スチュワードシップ部門では、SDGsも意識し、注力するべき12テーマ及びゴールを設定し、それに基づきテーマごとにトップダウンで対象企業を選定しエンゲージメントを行っています。そして、エンゲージメント活動結果と議決権行使の関連性を強化し、エンゲージメントによる企業行動促進を図っていることが紹介されました。

以上の講演内容を踏まえつつ、運用会社としてなぜエンゲージメントを行うのか、「移動」に関わる事業とエンゲージメントする際はどの様な視点を持つか、短期と長期の視点で業績を上げている企業に現実的にどちらに投融資を実施していくか等、受講生と共に活発な議論が行われる回となりました。

執筆:御代田有希(JSIF運営委員) 編集:岸上有沙

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