早稲田大学大学院の講座「サステナブルな事業/投融資の探求」#9

第九回目は、鎌倉サステナビリティ研究所の青沼愛氏より「『衣』から広がるESG」をテーマに講義していただきました。

第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、業界団体と事業に特にフォーカスした回となります。尚、生態系の中での各プレイヤーの役割を紹介してきたこれまでの講義とは異なり、第9回からは消費者・生活者との関わりを重視した形での紹介となります。

講義では以下の点に関して、ご説明をいただきました。

  • アパレル産業の課題整理
  • ビジネスと人権
  • 個別事例

はじめに、青沼氏の経歴やソーシャルオーディット(社会的責任監査)の活動についてご説明があり、国内外の衣類の工場以外にも電子製品や食品、消費財等、製造業に関する監査へのニーズの高まりもご紹介をいただきました。

「アパレル産業の課題整理」として、他業界と比較しても重大な2つの課題が挙げられました。それは、環境汚染と人権問題です。環境の側面からはCo2排出量、農薬・水消費、マイクロプラスチックの流出の課題に加えて、衣類の生産数と廃棄数が同時に増えている課題を解説いただきました。

人権の側面からは、「現代奴隷」という労働・人権問題に加担する産業のトップが、電子業界や衣類業界であり、意識して注意しなければならないという指摘がありました。仲介業者の存在や分業でサプライチェーンが複雑に世界中に広がり、関係者が多いという背景が透明性を確保する難しさであり、企業が意図せず人権を侵害している可能性があるとのことでした。

これらの課題解決の糸口として、価格競争や消費サイクルの早さなど根本的な業界構造の見直しや、衣類のデザイン時の計画設計が鍵になる、とお話いただきました。

次の「ビジネスと人権」に関しては、各国の人権への法整備が進んだきっかけでもある指導原則(ラギーフレームワーク)をご紹介いただきました。欧米で対応が進む一方で、日本は奴隷労働がサプライチェーンの中に潜んでいる可能性のある商品の輸入額が多く、国内の外国人労働者などの人権リスクも高い、と世界から指摘をされています。特に海外から日本の工場を見る目が厳しくなっているという点や、日本でも人権問題に対して取組が始まっている点などにも触れられました。

最後はアパレル産業に影響を与えた「個別事例」を挙げていただきました。不買運動を機にソーシャルオーディットの重要性がアパレル業界で認識された例、バングラデッシュのラナプラザビル崩壊の例などです。サプライチェーン全体を巻き込んでカーボンニュートラルや現代奴隷へのアクションを求める企業も出てきており、アパレルに限らず企業としてサプライチェーンや発注先を把握することの重要性についてお話されました。今後の動きとして、CSR(Corporate Social Responsibility)でなく、CSJ(Corporate Social Justice)という視点で、社会課題に対して企業がどう考えているかを求める動きが始まっているというお話をいただきました。

身近に人権を感じた事例として外国人実習生の例や、1枚の洋服のコスト構造はどうあるべきかという議論も進みました。授業を通して紹介された課題は1企業のみで解決できないものです。そのため専門家を巻き込むことや構造変革の必要性、さらには法律整備の重要性が挙げられました。様々な事例や見解を交えてご解説をいただき、どの企業、どの消費者も関わる人権の課題に自身が日本でどのような行動を起こせるのか、深く考えさせられるきっかけとなりました。

※執筆担当…亀井茉莉(JSIF個人会員)

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