早稲田大学大学院の講座「サステナブルな事業/投融資の探求」#13

第十三回目は、日本経済新聞の小平龍四郎氏より「デジタルから始まるESG、メディアの役割」をテーマに講義していただきました。

第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、メディアに当たります。

講義では以下の点に関して、ご説明をいただきました。

  • メディアとESG
  • ESG情報とデジタル化

はじめに、小平氏より自己紹介と今回のテーマに沿い、民間メディア媒体としての日経新聞におけるデジタル戦略の実態の紹介がありました。メディアの役割を改めて整理し、情報の伝達を仲介していることや、間接的にはお金や投資を仲介しているとの解説がありました。また、メディアとしても、問題点を報道する社会的責任や、個人情報の扱いといった極めて重い役割や責任があるといったESG課題を抱えている点も言及がありました。

次に、日経新聞をはじめとした日本の各種メディアで起きているESGを取り上げる上での課題の指摘がありました。まずはそもそも、日本のメディアで頻繁に取り上げる10年前に、ESGを始めとした様々な新概念が海外ではその潮流があり、社会、そしてメディアの関心に時間差が現実的にあることが指摘されました。また、新聞を開けばESGで言葉じりのみをしばしば情報化してしまっている点や日々増える専門用語の羅列になってしまう「アルファベット・スープ」問題があるのではないかという自らの指摘もありました。こうした課題は、「ESG」に限ったことではないことを、BRICsを例にみてみました。「BRICs」は言葉としてはメディアの頻出単語からは消えていったものの、議題として新興市場や中国市場など語られることは引き続き多く、本質は消えることはなく、ESGにおいても同じような経路をたどるのではないかという解説がありました。

ESGを伝えるメディアには投資理論への賛否両論やアルファベット・スープ対策も考えながら、本質の情報を届ける役割があることを読み取って欲しいと解説がありました。

今回のテーマは「デジタルから広がるESG」ですが、その前に米国と日本を比較するといかに無形資産の価値化、時価総額への影響が異なるかが紹介されました。市場の産業構造に違いがあることも大きく寄与していますが、そうした無形資産、見えないところの価値にESGに関連した活動や事業も含まれているのではないかと考察されました。

なぜ企業が経営上、見えない価値≒ESGに興味があるのか、エーザイを事例として紹介されました。エーザイは一例に過ぎないが、様々なESG要素がPER、PBR等とどの様な相関関係にあるかを分析する傾向は企業だけでなく、運用機関、研究機関において進んでおり、その際にはビッグデータやAIの活用が活発となっていることが紹介されました。

他方、各企業による膨大な情報収集と分析が監視社会の懸念を増大させていることや、アマゾンの顔認証技術ビジネスが人種差別を招く技術と株主提案されるなど、デジタル化が進む中でのESG課題が顕在化していることも合わせて紹介されました。また、最初の課題に立ち戻ると、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」も「ESG」同様のメディア頻出単語となっており、メディア業界の反省点として、表面的な言葉ではなく、本質としての概念を伝えて行かなければいけないことが改めて強調されました。

ESG要素に纏わるメディア発信に限ったことではないが、新概念を集中豪雨的に伝える傾向にあること、研究者とは異なって今起きていることに伴奏して伝えること、多角的に伝える中で読者が最終的なメッセージの行方に迷ってしまうこと等、メディア側が抱える傾向とジレンマが正直に紹介され、改めて新聞等のマス・メディアに期待される役割等を議論し、講義が結ばれました。

※執筆担当…岡田敦(JSIF運営委員)、編集 岸上有沙

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