早稲田大学大学院の講座「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」#6

第8回目の講義(2022年5月28日)は、「機関投資家のコーポレートガバナンスを見る視点」と題して、ニッセイアセットマネジメント(チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー 執行役員 統括部長)の井口譲二氏より解説をいただきました。

2015年に日本版コーポレートガバナンス・コードが導入されてから、取締役会には、企業経営の方向性や戦略を監督する役割が期待されています。ヒトが変わって経営がころころと変わることのないように、経営戦略の永続性を担保することも取締役会の大事な役割です。なお、「コーポレートガバナンス」の定義は、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」とコードで記されています。

コーポレートガバナンスの形は、国によって異なっています。例えば、独、仏、蘭、北欧のように監査役会と経営陣が分かれている二層型(欧州大陸型)や、米国や英国のように経営陣が取締役会の一部となっている一層型(グローバルモデル)があり、機関投資家の立場からは、監督機能を発揮しやすい一層型が良いように感じています。日本も一連のコーポレートガバナンスの整備によって一層型に近づいています。また、会社法から見てもガバナンスは地域によって異なっており、議決権行使の議案ではより詳細な議案が提示される欧州型に対し、米国では簡素な議案にとどまるなどの違いがあります。投資家の立場からは、あまり細かすぎない方がメッセージとして、届きやすいように思います。

コーポレートガバナンスへの期待や役割も変化してきています。特に昨今では、より一層「持続可能(サステナブル)な社会」への対応が求められています。機関投資家を対象としたICGN (International Corporate Governance Network)のグローバル・スチュワードシップ原則や、企業を対象としたICGNグローバル・ガバナンス原則でも、社会や環境への貢献が謳われています。また、2021年6月に改訂された日本版コーポレートガバナンス・コードでも、持続的な企業価値向上の観点から、環境や社会に関する取り組みに対する取締役会の責務なども記されています。機関投資家にとっても、持続的な社会構築に貢献できる(企業価値向上できる)企業の見極めが重要になってきています。

一方、外部者の機関投資家にとって、ガバナンス要因の実効性(取締役会の実効性)の見極めは難しく、その分析、判断には洞察力が必要となります。取締役会に自己評価、主な議事内容、取締役のスキルマトリックス、役員報酬体系などから、その実効性を総合的に推し測ることとなります。

コーポレートガバナンスの範囲も広がりを見せています。IFRS財団が策定しているサステナビリティの情報開示ルールでは、TCFDのフレームワークに沿って、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標についての開示が求められるようになります。人材版伊藤レポートにあるように人的資本に対する考え方を示すこともより重要になってくると思います。こうした意味では、コーポレートガバナンスの変容を通じて、取締役会の役割もより広範、かつ具体化されてきており、今後ますますその実効性に差が出てくると思います。

※執筆担当:御代田有希、岡田敦(JSIF運営委員)

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