早稲田大学大学院の講座「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」#7

第9回目の講義(2022年6月4日)は、「ESG視点のデータ・評価との関わり」と題して、ESG・サステナビリティに関する多様なプロフェッショナルな経験を持つ、岸上有沙氏より講義頂きました。

講義の全体の流れとしては、岸上氏がサステナブル投資に関わるようになるまでの経緯と問題意識から始まり、投資判断ツールとしてのESG評価データがもたらし得る役割と、それをとりまく国内外の過去から現在までの動きをご紹介頂きました。

岸上氏には二つの出発点がありました。一つは、学部時代における、長期的な視点で経営を営む経営者との出会いでした。二つ目は、大学院時代に専攻したアフリカ学の中で社会起業家に関して研究したことでした。この二つを経て、長期的な視点で経営を営む会社を評価、応援できるマクロなお金の仕組みづくりの重要性を感じ、その問題意識と合致する形でFTSE Russell社のAPAC地域でのESG責任者を務めるなど、サステナブル投資に関わることとなりました。

続いて、岸上氏の個人的な体験を通じ、ESG評価やそれを活用したインデックスがもたらし得る効果をお話頂きました。

「2000年の英国年金基金法の改正を受けて、翌年、FTSE4Good Global Indexが作成されました。少しずつ基準が強化され、2007年には気候変動基準が導入されますが、この時期から、私のFTSE Russell社との関わりが始まります。その後、金融危機を経て英国や日本でも、機関投資家へのスチュワードシップ・コードが導入され、長期的な視点で投資先企業を見る上では無関係とは言えない要素として、環境や社会面への認識が高まります。公的年金の積立金運用を行うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がこの流れを受け、FTSE Blossom Japan Indexを含んだESG要素考慮型のインデックスを選定したことは、日本のサステナブル投資の流れにおいての大きな節目になったと思います。」

その後、ESGデータがサステナブル投資・ファイナンス全体の中でどのような発展を遂げてきたのかをご紹介頂きました。まだ、投資判断にこうした情報を取り込むことが稀だった2000年前後頃から、企業が自主的にESG評価判断の軸となる情報開示のガイドラインや識別できる指標を提示してきたGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)などの国際組織や、それらの指標に基づき投資判断材料となるための企業調査を行う独立系の調査機関・データープロバイダーが増えて行きました。また、インデックス連動型のパッシブ運用や、アクティブ運用の参考ベンチマークとして活用される株価指数の作成においても、こうした独立した調査機関の情報が活用されるようになりました。その後、金融危機とLIBOR操作を受けベンチマーク運用の規制や金融の在り方が見直される中、指数会社を始めとした金融サービスプロバイダーにおけるESG評価の内製化が進み、ESG関連情報の重要性と情報量が増える中で、基準や評価手法の統一や整備を求める声の流れなどが説明されました。

なお、このような流れや、評価を実施する側の視点をより具体的に理解するために、受講生と共に新たなESG評価枠組みを策定するグループワークが実施されました。これを受け、現在、証券監督者国際機構(IOSCO)や日本の金融庁の専門分科会においても議論されている、基準づくりや情報収集における課題や、基準統一の流れと新たなテーマの深堀に必要な柔軟性のバランス、事業会社・コンサルティング会社・運用会社などそれぞれの視点による現状の見方の違いなどを体感する機会となりました。

※執筆担当:御代田有希、岡田敦(JSIF運営委員)

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