早稲田大学大学院の講座「サステナブルな事業/投融資の探求」#10

第十回目は、担当講師である岸上有沙より、「食」から広がるESGの講義がありました。

第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、業界団体(食品業界)会社に当たります。

講義では主に以下に関して、説明がありました。

  • 投資家視点で広がる「食」とESG課題への関心
  • なぜ、「食」におけるESG課題を見て行く必要性があるのか?
  • 各環境・社会テーマと食との関わり

についてです。

冒頭、投資家が賛同する「食」に関連したイニシアチブの紹介がありました。プロテイン産業、アニマル・ウェルフェア、サプライチェーンの強制労働、栄養不良等、様々な課題に向き合うイニシアチブの重要性が高まっている点や、そうしたイニシアチブと大手のサービスプロバイダーが、今後さらに提携をしていく傾向について解説がありました。

投資家・消費者・事業者の視点から、今後、日本で顕在化するであろうESG課題と背景について解説がありました。各環境・社会テーマと「食」課題の関わりについて、日本や日本との関わりが深いアジア諸国に焦点を当てながら、投資家やステークホルダーの問題意識について、ポイントを絞った以下のような紹介がありました。

例えば、

  • 森林伐採と生物多様性の喪失については、取組みを強化してきている中南米企業に対して、アジア地域での対応が遅れ気味である。また、パーム油の生産地としても知られるアジア地域において、気候変動に大きな影響を及ぼしうるピート地の開拓とどの様に向き合っていくべきか。
  • 廃棄物と水汚染では、養鶏・養豚の現場で取り組みが遅れており、訴訟リスク等のコスト面を抑えると同時に、日本国内含めビジネス・チャンスへと転じる模索が続いている。
  • 元々は集中飼育における病気の予防策として使用されてきた抗生剤だが、その多用が畜産動物のみならずその後食した際の人体への影響など、懸念視されている。各国法規制が高まる中、取組みを強化している一部の企業を除き日本を含めたアジア企業での対応が出遅れている。
  • 労働環境分野では、プロテイン産業における労働環境の悪さについて、以前より指摘があるが、コロナ禍で顕在化している。水産養殖国における労働課題はここ数年注目を浴びているが、その甲斐あって一部のアジア企業で取組が進んできている。
  • アニマル・ウェルフェアに関しては、家畜へのストレス、病気の蔓延、抗生物質の多用、家畜農家のコスト増への不安といった課題を抱えている。
  • 栄養不良(栄養過多と栄養不足の二重構造)については、肥満や過体重が要因となる疾病よる支出、栄養不良によるGDPへの影響、各国で炭素税より砂糖税が多く導入されている現状がある。

企業・及び投融資機関が「食」に関連するESG課題に取り組む主な動機は、法規制の強化、消費者行動の変化、中長期的な経済価値への影響、投資家行動/関心の高まり等と様々です。紹介した各種イニシアチブでの日本企業の取り組みが総じて伸び悩む中、一消費者、企業、投融資機関、行政それぞれの立場でどの様に取り組むべきか、考えるきっかけとなりました。

※執筆担当…岡田敦(JSIF運営委員)、(編集:御代田有希)

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