早稲田大学大学院の講座「サステナブルな事業/投融資の探求」#8

第八回目は、損害保険ジャパンの金井圭氏より「損害保険会社からみたESG課題の重要性」をテーマに講義していただきました。

第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、保険(損害保険)会社に当たりますが、同時にグループ全体としては機関投資家であり、発行体であり、調査機関でもあることをご始めにご紹介いただきました。

講義では主に以下に関して、説明がありました。

  • SOMPOホールディングスとサステナビリティのあゆみ
  • 保険業界を取り巻くサステナビリティ動向
  • 地方におけるSDGsとESGへの取り組み
  • 保険商品としてのサステナビリティ取組事例

についてです。

2011年の東日本大震災時にCSR・環境推進室に着任した経験を踏まえた自己紹介の後、グループの歩みとサステナビリティの関係をご紹介頂きました。東京火災への火消の心意気から始まった創業時の精神が根底にあること、そして大きな転機として1992年にリオで開かれた地球サミットに経団連の団長として当時の安田火災の社長が参加したことが挙げられました。サミットから帰国後、これからは環境とNPOだという強いメッセージの下、社長室直轄の部署を設置し、今日のサステナビリティ推進部に至ります。今となれば、リーダーの先見の明があったと思え、その後もリーダー自ら、リオ+20やCOPに積極的に参加し、脈々と受け継がれています。

損保ホールディングスでは常に「人」に着目してきており、木を植えることよりも「木を植える人を育てる」ことに着目してきたことをご紹介いただきました。その際、NPOとの協働を大切にしており、環境NPOと協力した公開講座や、大学生や大学院生がNPOでインターンが出来るようなCSOラーニング制度と言った奨学金制度の提供を30年近く前から実施していること等をご紹介頂きました。

人に着目した仕組みは社内のCSRマネジメントにおいても活用しています。CSR推進室だけでなく、全国約2,800名の社員をCSRリーダー、CSRチェッカーに任命し、各部署の特徴に合わせたCSRの取り組みを推進しています。また、対話型の内部監査、2001年から社外ステークホルダー(有識者)との対話を活かした情報開示など、そのほかも対話をベースに活動を進めています。

なぜ、保険会社としてESG課題を気にするのか。損害保険は、自然災害や取引先の倒産など、万が一の時の保証を行う、企業の事業活動において欠かせない役割を担っています。ですが、2011年以降、地震・台風等による火災保険の支払額は1兆円を超えており、こうした状況を受けて直近4年間で3回保険料が上がるという今まで経験したことがない状況にあります。損害保険のビジネスモデルそのものが成り立つためにも、保険加入者の負担が増加しないためにも、気候変動をはじめとした様々なリスク要因を管理、軽減することが不可欠となっています。その際には、国際イニシアチブへの参画、活動の後押しとしての行政の役割、活動の流れ作りとしてESG指数への組み入れ、そして国際NGOから行動改善の声への注力なども重要であると紹介しました。

金井氏は富山支店の支社長を経験しており、地方ビジネスとの関わりからみたサステナビリティの実情も加えて紹介頂きました。中小事業者を対象とした環境省のSDGs活用ガイドブックの活用、地元行政や地方銀行と連携した形でのSDGsの理解を深めるワークショップの開催を実施していました。互いのネットワークを通じた新たな取引先との接点を増やすだけでなく、実際に各社のコスト削減や新製品・新サービスの開発等があるとのことでした。

最後に具体的な保険商品を通じたESG課題解決の事例をいくつかご紹介頂きました。その一例として、他の損害保険会社と連携した防災減災費用保険が挙げられます。災害救助法が適用されなかった場合には、避難を行った際の費用は全額市町村が負担することになっています。これでは、早期に避難するインセンティブが減ってしまうため、町村等の費用負担を一部保険金として払う様な団体保険が開発されています。その他天候、BCM、そして認知症など、様々なESG課題の現場への影響を見ながらの保険商品が紹介され、こうした目線での取り組みがそのニーズの高まりと共に増えてくる実感をしながら締めくくられました。

※執筆担当…岡田敦(JSIF運営委員)、(編集:岸上有沙)

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