「ビジネスと人権」に関する行動計画 改定版 (原案) JSIFによるパブコメ提出内容

本パブコメは、理事・会員有志で構成されるJSIF人権分科会がとりまとめの上、提出致しました。

提出したコメントの概要

  1. 「NAPを通じて目指すもの」を冒頭に
  2. ステークホルダーとの双方向の対話を含む、NAP運営体制の明確化
  3. 紛争地域の現場把握のための諸外国ステークホルダーとの連携
  4. スタートアップ支援の一環としての人権尊重の理解促進(金融庁・経産省など
  5. 移民労働者など国外労働者を視野に入れた施策
  6. 各アクターにおけるAI活用による人への影響の定期把握と報告
  7. 能力構築ツールの集約と強化
  8. 中小企業の拠り所ともなる中立的な人権機関の設置
  9. 施策の目標と進捗状況の具体化のタイムライン

1.「NAPを通じて目指すもの」を冒頭に

【該当箇所】第一章(3を1に)

【コメント詳細】

企業に環境・社会・人権への取り組みを求める際は、大枠として①経営層のコミットメント、②それに基づく方針・戦略、③実施状況の測定・報告の3要素を重視しています。行動計画にもこの要素を反映させることで、企業にとって明確な指針となります。現行の章立てでは、めざすべき方向と提供されるサポートが分かりづらく、企業の意欲を損ねる懸念があります。

そのため、「第1章 3 行動計画の改訂及び実施を通じて目指すもの」を冒頭に配置することを提案します。企業の取り組みを励ますような政府の姿勢を示すと共に、個別企業では解決することが難しい構造的な課題が存在することを認識し、その解決に向けた政府の役割にも言及頂きたいと考えます。

原案を活かしつつ、以下の主要ポイント・文章から始める文書構成を推奨します。

冒頭で言及を推奨する主なポイント:

  • UNGPに記載された企業の人権尊重の責任、政府の人権保護義務と、役割の整理
  • 個別企業では解決が難しい構造的な課題を認識し、その解決に向けた国としての役割への言及
  • 人権尊重に取り組まないことによるリスク、及び取り組むことによる個々人の人権尊重に加え、企業活動への正負の影響への言及
  • 責任ある企業行動への経営意識のある企業の後押しとなる、政府の姿勢が伝わる内容

NAP改訂原案を活かした、冒頭文のご提案:

1行動計画の改訂及び実施を通じて目指すもの

ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)に記載の通り、企業はそのバリューチェーンを通じて多くの人への影響を及ぼす立場にあり、よって人権尊重に取組む責任が認識されている。

企業は人権尊重に取り組むことによって、人権への負の影響を特定・防止・軽減・対処できるだけでなく、グローバルバリュー・チェーンにおける競争力を保持し、各ステークホルダーからの信用や信頼の維持・向上に繋げ、結果として企業価値毀損の予防や企業価値の維持・向上をもたらし得ると考える。

対する政府には、個々人の人権を保護する義務がある。その義務を果たすため、企業の人権尊重への取組を促、人権の侵害が発覚した際の救済へのアクセスを可能とすることは、各国政府の役割である。

尚、個別の人権への負の影響が生じる背景には、個別企業では解決し難い、構造的な課題が存在する場合もある。政府としては、こうした状況を理解し、マクロ視点での解決の一助に担うと共に、仮に、企業による個々の人権尊重の取組が、短期的に一企業における経済合理性にそぐわない場合においても、バリューチェーン上の脆弱な立場の人々の人権への負の影響の予防と対処が損なわれないよう、政府が人権保護のために必要な施策を講じて補完する役割も期待される。

2. ステークホルダーとの双方向の対話を含む、NAP運営体制の明確化

【該当箇所】第1章 4 行動計画の改定プロセス

【コメント詳細】

人権尊重の取り組みには、多様なステークホルダーとの継続的かつ双方向の対話が不可欠です。円卓会議等で意見集約の仕組みはあるものの、対話の機会が不十分であるため、より効果的な対話方法の検討と、その設置・報告を具体的に記載していただきたいです。

3. 紛争地域の現場把握のための諸外国ステークホルダーとの連携

【該当箇所】第2章 1. 人権デュー・デリジェンス➂諸外国との対話・連携

【コメント詳細】

紛争地域における人権デューデリジェンス(DD)の強化についての問題意識に賛同します。気候変動など地球規模の課題に対応するビジネスには、鉱物資源や原材料の調達が不可欠ですが、これらが紛争地域由来である場合、企業が意図せず負の影響に加担するリスクがあり、投資家として懸念しています。

しかし、こうした紛争地域の現場での監査には限界があり、投資家による的確なDDの実施は困難です。だからこそ、投資家として、企業としてのDDをより正確に実施できるよう、現地に詳しいステークホルダーとの連携を国としても積極的に強化することを期待し、本NAPにもそのことを盛り込んで頂きたいと考えます。

4. スタートアップ支援の一環としての人権尊重の理解促進(金融庁・経産省など)

【該当箇所】第2章 2(1)ジェンダー平等

【コメント詳細】

本章で指摘されている通り、日本における人権課題の一つはジェンダー平等だと思われます。そこに関連した課題として、スタートアップ支援が進む中、女性起業家やジェンダー配慮型のVCに対するハラスメントが発生し、資金提供者・受け手双方に悪影響を及ぼす実態が確認されています。

こうした課題に対応するため、金融庁や経産省などが行うスタートアップ支援の一環で、事業組成や出資における人権尊重の重要性をガイドや研修等に具体的に盛り込むなど、資金提供側・受け手双方への働きかけ強化に取り組んで頂きたいと考えます。

5. 日本国外の移民労働者を視野に入れた施策

【該当箇所】第2章 2(2)外国人労働者

【コメント詳細】

本章が指摘する通り、外国人労働者の人権配慮は日本企業における重要な人権課題の一つです。また、日本国内での共生に繋がる取り組みの重要性に賛同します。他方で、多くの日本企業が諸外国に資源調達・製造・販売拠点があることを考え、日本国内の外国人労働者だけでなく、日本企業のバリューチェーン上の移民労働者を含めた国外労働者を視野に入れた施策が必要と考えます。

6. 各アクターにおけるAI活用による人への影響の定期把握と報告

【該当箇所】第2章  3(1) AI・テクノロジーと人権

【コメント詳細】

様々ある人権に影響を及ぼし得る課題の中で、この数年で最も著しく、かつ目まぐるしい速度で状況が変化しているのは、AIの分野だと思われます。NAPプロセス全体において、年次での進捗状況の報告が望まれますが、AI部分に関しては、行政、民間、金融それぞれにおける活用方法・状況と人権への好影響・悪影響の両方を年次で把握し、必要な施策の定期的な見直しに繋げることが必要と考えます。

7. 能力構築ツールの集約と強化

【該当箇所】第2章  4指導原則の履行推進に向けた能力構築、5 企業の情報開示

【コメント詳細】

3年目の個別意見書(https://japansif.com/archives/2862)でも述べた通り、能力構築支援に期待しています。

既存のガイドや好事例が今後さらに増える中、それらを各省庁や団体ではなく、一つのサイトで集約・整理することで、重複や情報の見落としを防いでいただきたいです。特に好事例には、参考となる具体的なポイントの解説を付けていただけると助かります。加えて、事業規模別・業種別・課題別の実践的支援に向け、専門家との更なる連携強化を期待します。

8. 中小企業の拠り所ともなる中立的な人権機関の設置

【該当箇所】その他/能力構築

【コメント詳細】

大企業は、人権デュー・デリジェンスのプロセスや、負の影響が発覚した際の救済メカニズムを自ら構築・運用できるだけの専門知識や人材、を収集・または採用するリソースを有しています。

一方、中小企業にはそのような体制を整える余力がほとんどありません。多くの中小企業は、日本や海外の大手企業を通じてグローバルなサプライチェーンに組み込まれており、今後も競争力を維持するためには人権尊重への取り組みが不可欠です。

このような状況を踏まえ、専門性を集約し、中小企業を含む企業が能力構築や救済プロセスにおいて頼れる、中立かつ独立した人権機関の設置に向けた具体的なプロセスについての言及を求めます。

9. 施策の目標と進捗状況の具体化のタイムライン

【該当箇所】第2章  8 実施・モニタリング体制の整備

【コメント詳細】

3年目の個別意見書(https://japansif.com/archives/2862)では、NAP実施における優先課題とタイムフレームの提示を提案しました。

企業に環境・社会・人権への対応を求める際は、①経営層のコミットメント、②方針・戦略、③実施状況の測定・報告の3要素が重要であり、直近では特に③では具体的なインパクトの開示が期待されています。

そのため、政府の施策においても、期待されるインパクトを明確にすることが不可欠です。既に第2章の8(1)において「定量的な指標や成果指標(Key Performance Indicators、KPI)の設定」がステークホルダーから指摘されている点や、「8(2)➂施策の進捗状況と目標達成度の開示検討」が具体施策の例として記載されていますが、検討に留めず、2026年度中など具体的な開示方法とタイムラインの提示を求めます。

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