トランプ米大統領のパリ協定脱退表明から見えた、気候変動取組みの不可逆性

トランプ米大統領がパリ協定から脱退することを2017年 6 月 1 日に正式に表明した。日本の報道では、失望した、残念に思うという論調が多いが、脱退表明でかえ ってはっきりと見えことがある。気候変動問題は米国にとってもすでに避けて通れない課題となっていることだ。そう確信した。

米国の気候変動抑制に関する国際的協定からの脱退は今回が初めてではない。ブッシュ元大統領時代の 2001 年にも京都議定書からの離脱宣言をしている。当時はブッシュ氏自身が石油事業会社のオーナーでもあり、米石油業界の圧力かと思われたが、今回は見えてきた構図が前回とは全く異なる。

トランプ大統領は、パリ協定は米国に不利益をもたらすと言っているが、脱退により何をするのかは全く見えない。すでに表明しているのは、国連を通じて途上国の温暖化対策を支援する基金として 30 億ドルの拠出をオバマ前政権が約束したのを撤回することと、鉄鋼、石炭で鉄鋼業が発展した「ピッツバーク市民を代表して当選した。パリではない。」と、石炭業界の雇用を増やすことを示唆するような発言の2つぐらいである。

米国が正式にパリ協定から離脱できるのは早くて 2020 年 11 月 4 日であり、次回の米大統領選挙の翌日だそうだ。それまでトランプ氏が大統領であるかも不明と思える状況だが、次期選挙に向けて方針を変更することも考えられる。

離脱に反対の州や産業界

また米国は、大統領が決めても、それで物事が進む社会ではない。案の定、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州は、パリ協定の支持し、独自に温暖化対策を進めると発表した。皮肉なことに、ピッツバーグ市の市長も「パリ協定に従う」と発言している。冷静に考えてみれば、脱退したところで、石炭需要が増えるはずもなく、ピッツバーク市民が潤うには雇用政策が必要だが政策は何も見えない。

米国産業界からは、トランプ大統領の決定に失望したとの表明が相次いでいる。電気自動車会社ステラのイーロン・マスク CEO は大統領戦略・政策フォーラムの委員を辞めると表明している。アップルの CEO ティム・クックも大統領の選択に失望した、気候変動は現実であると発言している。GE の CEO ジェフ・イメルト CEO も決定に失望し、産業界は政府に頼らず温暖化対策をリードしなければならないと発言し、IBM も温暖化ガス削減に向けて長年の活動を続けると表明している。

米石炭業界も石油業界も離脱に反対!?

さらに、米石炭業界からは協定に留まり交渉を有利に進めた方が良いとの意見も出ている。意外と思われるかもしれないが、石油メジャーも脱退には反対だ。レックス・ティラーソン氏は米国務長官になるまで、米国石油業界最大手のエクソン・モービルの最高経営責任者(CEO)であったが、CEO 時代にはパリ協定を支持しており、現政権に入ってもパリ協定に止まるよう主張している。ノルウェーのスタトルの CEO は、我々ビジネス 10 年単位であり、(米大統領任期の)4 年ではないと発言している。こうした発言からは石油メジャーにとっても、温暖化対策を進めることが事業上有利な時代となっていることが明確に見える。メジャー企業は、天然ガスや新たな事業として洋上風力発電などにも取り組み始めており、低炭素社会に向けてビジネスをシフトし始めているからだ。中堅の石油会社と比べてそうした取り組みをできる余裕があり、長期的には優位な競争力を築けるからだ。英蘭のロイヤル・ダッチシェル、英国の BP、フランスのトタルは、今では共同して国連に温暖化ガス排出量に応じてコストを課す「炭素価格」の枠組みを導入するよう求めている。

投資家の反応と市場の現実

投資家からは、多くのパリ協定支持のコメントが出ている。米国カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)、また世界の SIF が連携する GSIA(Global sustainable Investment Alliance)は米政権に再考を促し、US SIF は離脱が明らかに間違った決定だとし、そのほかにも米国・欧州多くの投資家がトランプ大統領の決定に関わらず、パリ協定を支持すると発言している。

日本では気づきにくいが、気候変動問題はすでに海外の株式市場に大きな影響を与えている。例をあげると、ダウ・ジョーンズ社の米国石炭指数は、石炭関連企業の株式指数であるが、この 5 年で 10 分の 1 に下落している。ドイツの電力株もこの 5 年で 5 分の 1 となっている。最近では、5 月 31 日のエクソン・モービルの株主総会で、気候変動に関するカーボンリスクの開示を求める共同の株主提案に対して、62.3%の支持が集まった。昨年は 38%であった。エクソン・モービルの 2 大機関投資家株主は、米国のブラックロックとバンガードであるが、こうした投資家も、気候変動政策と市場の圧力が需要を減退させ、資産価値が大きく毀損するリスクについて、同社を含む化石燃料に関わる企業に対して懸念を表明する手紙を共同で出している。

将来資産価値が大きく毀損する可能性のある資産は、座礁資産と呼ばれているが、米国のカルフォルニア州職員年金基金(CalPERS)やノルウェーの年金基金などが、そうした座礁資産となりうる石炭や石炭火力発電所などの比率の高い企業の保有株式を売却するダイベストメントの動きも広まっている。

一方では、電気自動車のステラの株式時価総額が、この 4 月にフォードとゼネラル・モーターズを上回った。電気自動車の将来性が買われた結果と言える。国連責任投資原則の働きかけで、2014 年にスタートしたモントリオール・プレッジは、参加する年金基金や機関投資家が、保有している投資資産のポートフォリオで排出する温暖化ガス量を開示し、また減らすことを目的した取り組みだが、120 を超える投資家が参加しており、その資産総額は 1,110 ドルを超えている。

世界のサステナブル投資資産は、JSIF を含む世界の SIF が今年 3 月に共同発表したレポートでは、2016 年に 2,755 兆円となった。日本の株式市場全体の 5 倍の規模だ。また環境・社会・ガバナンスの評価を考慮して投資する ESG 投資に参加している投資家は 1,700 機関を超え、その資産合計は 6,800 兆円を超えている。世界の 20 大年金基金では、12 年金基金が ESG 投資をすすめ、資産額では71%を占めている。また世界の運用会社も、資産額で 63%が取り組む会社のものだ。こうした投資家の流れは日本では気づきにくいが、すでに世界の資産運用のメインストリームになっており、この流れが逆流することはもうない。

トランプ大統領のパリ協定脱退声明は、米国の州や産業界、また石油業界、さらに欧州各国、大手投資家の反応を見れば、今では気候変動問題は米国であっても後戻りできない状況になっていることを明らかにさせたと言えよう。日本の企業や機関投資家は、気候変動問題については実感がないようで反応が薄いが、このような世界的な流れを意識して、さらに積極的に取り組むべきだろう。

荒井勝

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