早稲田大学大学院の講座「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」#2

第3回目の講義(2022年4月23日)から、外部講師の方々に講義をいただきます。「企業視点でのESG」と題して、双日株式会社の執行役員IR担当本部長である遠藤友美絵氏より、解説をいただきました。

双日のESGに関する取り組みが企業価値にどのように連鎖をしているのかを紹介します。双日は来年発足20年を迎える総合商社ですが、源流をたどれば、100年以上の歴史がある企業です。

昨年4月に公表した中期経営計画2023 -Start of the Next Decade-(以下、中計2023)では、2030年に双日の目指す姿として『事業や人材を創造し続ける総合商社』と位置づけ、そこからバックキャスティングして、中計2023の3年間で企業価値向上に向けた各種施策を盛り込んだ経営計画を公表しました。

また、この中計2023ではKPIとして「PBR1倍超の達成」を掲げています。ROEの向上はもちろん資本コストの低減にも努め、PBR1倍超の達成に挑戦しています。特に資本コストの低減については、将来の財務情報となる非財務に対する取り組みを定量的な情報とともに可視化させ情報開示を拡充することで、投資家との透明性の高い対話を行い、当社の中長期での成長期待に繋げていくよう取り組んでいます。

双日の持続的な価値創造を支える基盤であるESGに関する取り組みを紹介します。

「E(環境)」

双日グループは「事業を通じた脱炭素社会の実現」に向けて、気候変動対応として自社グループのCO2排出量削減に向け、取り組みを整理・加速しています。2050年長期ビジョンとして、2050年CO2排出量ネットゼロ、また、商社の特徴である広範なサプライチェーンを含めた人権や水リスクに対する対応も計画的に実施しています。

「G(ガバナンス)」

コーポレートガバナンスでは、取締役会での社外取締役の比率を50%とし、議長は社外取締役が務めています。また、業績連動の役員報酬制度を導入しており、ESGの取り組みを業績評価の対象のひとつとしています。

「S(社会)」

そして、今日のテーマの中で最も強調して取り上げたいのは当社の人材戦略です。当社の社長自らが述べているように、双日の最大の資産は「人材」です。人材は当社にとって「競争力の源泉であり、価値そのもの」です。多様性を競争力に変える人材戦略を打ち立て実践しています。「事業経営できる力」「発想・起業できる力」「巻き込み・やりきる力」という3つの具備する力をもつ人材を輩出し、価値創造に繋げていきます。具体的には、「成長を実感できる」「挑戦を促す」「多様性を活かす」という3つを人材戦略の柱に据え、各種施策にはデータを活用しKPIを使った人的資本経営に取り組んでいます。

人材への取り組みについて、私自身の経験をお話します。人事の課長であった2017年当時、女性活躍推進に取り組むも、女性が活躍する機会が少なく、また、それらを支える制度・評価が道半ばでありました。

なぜ会社の中でこうした女性活躍が進むスピードが遅いのか?当時、社内のヒアリングやデータ分析を行ってみると、アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)という事実がありました。女性の結婚・出産といったライフイベントを過剰に配慮した結果、女性社員の経験や挑戦が限定的となってしまうケースが散見されました。このアンコンシャス・バイアスが女性活躍の壁になってしまっていることを上司に気づいてもらうことから始めるためにも、管理職に研修を受けてもらい、社員一人ひとりがいきいきと活躍できるよう、制度や環境づくりに注力しました。今はその取り組みがさらに加速し、女性のキャリアを止めない制度・施策が充実し、健康で働き続ける環境、多様なキャリアパスの機会を持つことといった、ダイバシティ&インクルージョンを積極的に推進しています。

また、双日のユニークな取り組みして、Hassojitzプロジェクト(新規事業創出ビジネスコンテスト)や、双日アルムナイ(双日OB/OG(ニチメン・日商岩井を含む)といった人的ネットワークのプラットフォームを創設し、実際にOB/OGから事業を応援していただくような仕組みもあります。

変化のスピードが激しい世の中において、全社一丸となって変革しながら課題を克服し、新たな価値を創造し、ESG経営の連鎖で持続的な企業価値の向上を目指す双日の今の姿を、ご紹介しました。また、私が入社してからの広報、海外留学、IR、人事の経験も踏まえて解説をさせていただきました。

※執筆担当:岡田敦(JSIF運営委員)

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