早稲田大学大学院の講座「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」#3

第4回目の講義(2022年4月30日)は「運用会社のESG」と題して、りそなアセットマネジメントの執行役員責任投資部長である松原稔氏より、解説をいただきました。

運用会社は100社あれば100通りの取り組みがあります。前半は、ケーススタディーとして、りそなアセットマネジメントの責任投資の取り組みについて紹介したいと思います。当社では、運用資産額の約9割を公的年金や企業年金からの資産を預かって伝統的資産で運用しています。

また、責任投資活動においては、毎年、スチュワードシップレポートを発行し、その取り組みを開示しています。特に今年のハイライトでは、当社の「アイデンティティ体系」を明確化しました。このアイデンティティ体系の最上位にあたるものに「パーパス」があるのですが、当社では「将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供する」運用機関でありたいと定義付けを行っています。また、ここで謳っている「豊かさや幸せ」に命を吹き込む目的で「インクルシーブな社会経済」、「サステナブルな環境」、「企業文化・企業のパーパスを評価しうる資本市場」の3つに「かたち」を与え、責任投資活動とパーパスを関連付けたわけです。

さらに、これら定義づけた「3つのかたち」をマテリアティとして明らかにしています。具体的にはサステナビリティ上の重要性と長期的運用パフォーマンスにおける重要性の2軸により、当社のマテリアティとして気候変動問題、生物多様性等の具体イシューの明確化を行うとともに、さらにこの枠組みに時間軸という第3軸を加えるとともに長期のシナリオを与え「あるべき社会」と「ありうる社会」を表し、これからの金融はどうあるべきなのかを明らかにしたわけです。また、「あるべき社会」と「ありうる社会」という理想と現実には必然とギャップが生じるので、そのギャップを埋めていく上で①意志を伝えること(エンゲージメント)と②インパクト投資、によってそのギャップ縮小を図っております。

つまり、私たちはこれからの未来は従来型の発展モデルの社会なのか、サステナビリティ重視の社会が形成され、ステークホルダー資本主義の社会になるのかを表すとともに、それによって、金融はどう行動に移すべきかをレポートにはまとめているわけです。

このレポートを通じてこれからの資産運用の在り方についても検討を進めています。特にパッシブ投資家のこれからの役割の一つに、ルール主導型の市場形成という大きな枠組みの中で資産運用にも役割があると考えています。特に2020年代に入って、金融も社会の持続可能性に向けたルール形成にコミットメントし始めています。また、社会の持続可能性向上を働きかけていく上で、企業の貢献と企業の成長を同時実現する必要性があるのですが、これを埋める1つの例として、統合報告書のような非財務情報開示が求められつつあります。統合報告書の発行者数は今年度600社超えると思われますが、当社ではAIを使って、企業の統合報告を分析するようなことにもトライしています。このように“あるべき未来”と“ありうる未来”には大きなギャップがあり、様々な解決すべき課題があると感じていますが、私たちも様々なステークホルダーの皆様とダイアログをして、先進的知見を責任投資に生かしながら課題解決に向けて取り組んでいる、という段階にあると感じています。

後半の残りの時間では、資産運用のこれからについてもお話しをしたいと思います。資産運用を通じて、「あなたにとって仕事とは何か?」「あなたにとって資産運用とは何か?」「あなたは運用を通じて、何を実現したいのか?」を新入社員の皆様に問いかけることがあります。そして、資産運用の本質はサービスではないということと、大切なことは「信任」であるとお話しをしています。それを深く考えるためには、人間性がどうしてもこの分野では必要になってきます。ヒューマニティについては、しばしば時代の賢人が語っていることを、拠り所にして考えてみると良いのではないかと思っています。冒頭のアイデンティーで触れた、豊かさの話にもつながりますが、ウェルビーイングを見ていくことが自分の仕事を磨き、プロフェッショナルであるということになるではないでしょうか。加えて、アーティストである点もこの仕事では大切な要素だと考えます。ステークホルダーとダイアログをして、知見を集積することで、投資の世界は広がり、社会の一員としての責任を果たせると思います。

前半で、当社のような取り組みがなぜ必要なのか、考え方は解説した通りですが、どの運用にも意図があります。金融とは、資金を余っている場所から足りない場所へ流通するものであると捉えられることが多いと思います。その意味で金融が意図を持つことには色々な意見があると思いますが、金融によってどんな社会をつくりたいのか、という意図(インテンション)を持つことも重要ではないかと思います。経済の発展のうえに金融があるということを考えると、そのための意図として、ヒューマニティを持って当たることが、金融のあるべき姿をつくる原動力になるのではないかと思っています。

参考:りそなアセットマネジメント スチュワードシップレポート2021/2022

執筆担当:御代田有希、岡田敦(JSIF運営委員)

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