早稲田大学大学院の講座「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」#5

第6回目の講義(2022年5月14日)は、「銀行のESGへの取り組み」と題して、三井住友信託銀行(フェロー役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー)の金井司氏より解説をいただきました。

信託銀行のDNAは、サステナビリティと親和性があります。信託銀行は、基幹産業への貸付を通じて戦後の経済復興や高度経済成長を支える役割を担った貸付信託や、企業から年金の管理・運用を任される年金信託といったサービスがそうです。また、年金信託などは、顧客企業だけではなく、その先にいる年金受給者(企業OB)を最終受益者として考慮に入れること、今日で言うところのポジティブインパクトを提供することがビルトインされた商品であり、ステークホルダーへの配慮と通じるものがあります。

今日の講義では、銀行の立場での取り組みと言うことで、三井住友信託銀行の事例を紹介します。当社では、経営とサステナビリティの融合というフレームワークを打ち出しています。2020年にパーパスを設定し、中期経営計画において社会的価値創出と経済的価値創出の両立を標ぼうしました。当社は、社会的価値創造に至るまでの価値の連鎖、統合思考に基づく資本循環、資本循環に与える影響事象としてのマテリアリティを組み込んだ価値創造プロセスを構築していますが、このような考え方に、経営が関与することが取り組みを進めるうえで大切なことだとも考えます。なお、当社のマテリアリティは、基本的にダブルマテリアリティの考え方を採用しており、①インパクトマテリアリティ、②ガバナンス・経営基盤マテリアリティ、③財務マテリアリティの3つの観点で整理しています。もう1つの特長を紹介すると、サステナビリティ推進部が主体となって行っている、インターナル・エンゲージメントです。この目的は、ESG評価機関等の外部の声を収集し、関連部署と徹底的に議論し、内輪の論理を打破することにありますが、この後紹介する、当社の事例に結びつく取り組みにつながっていると思います。

脱炭素金融の事例を紹介します。当社としてイニシアティブに参加をし、自社のゼロカーボン戦略を公表しています。具体的には、NZBA(ネットゼロバンキングアライアンス)に加盟し、投融資ポートフォリオのGHG排出量について、2050年までにネットゼロを目指す、といったことを打ち出しています。カーボンネットゼロでは、単にリスク管理を行うだけではなく、脱炭素金融が生む新しい価値を発見する必要性があります。当社はインパクトファイナンスを推進していますが、脱炭素の文脈ではそれを実現するために必要なバリューチェーン上のウィークポイントをインパクト分析を通じて発見するということになります。インパクトファイナンスのラインアップも充実させており、融資商品であるポジティブ・インパクト・ファイナンスは世界で初めて当社が手がけました。融資残高も2022年2月までの累計で26件、1,600億円まで積みあがっています。それ以外も、三井住友トラストアセットが内外株式のインパクト投資を、三井住友信託銀行はVCや船舶ファンドにインパクト分析サービスを提供しています。なお、その際に科学的知見を取り込んだ事業評価が重要だと考え、TBF(テクノロジー・ベースド・ファイナンス)チームを組成しました。TBFは全て理系の博士号・修士号を持つ専門家で構成されています。また、政策株式をゼロにする方針を打ち出していますが、その資金を顧客企業のイノベーションに資する投資に振り向けています。当社では、これをインパクト・エクイティと呼んでおり、2030年までに5000億円の自己資金を投入し、2兆円の投資家の資金と、それ以上のシニアローンなどを集める方針です。そしてこれらを通じ、バブル崩壊以降停滞してきた資金、資産、資本の循環を活性化させ、経済の成長にも貢献していきます。こうした取り組み以外でも、地産地消型水素バリューチェーンを独自に構築し環境省の実証事業にエントリーしたり、北海道地方環境事務所とのESG地域金融連携協定の締結を通じ、北海道の脱炭素を支援したりするなど行っていますが、TBFがそれらの原動力になっています。

その他の事例では、早くから力を入れて取り組んでいるのが、環境不動産の取り組みです。国交省とも連携をしながら、不動産関係者がCASBEEを容易に取得できる支援や、独自にCASBEE評価と賃料の相関を調査し、公表をするようなこともやっています。2021年9月、572件の認証物件に対して、288件を当社で取り扱いました。

当社では他行に先駆けて、2021年から、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に参加を始め、自然資本や生物多様性のビジネスにつなげたいとも考えています。

※執筆担当:御代田有希、岡田敦(JSIF運営委員)

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