早稲田大学大学院の講座「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」#1

JSIFは2017年から早稲田大学大学院経営管理研究科にて講座づくりに協力しています。(2008~2016年は同大学院のファイナンス研究科の講座)

2022年度春学期講座は、「ESGを取り巻く環境とステークホルダーの連関性の探求」として毎週土曜日の午前中に開講されています。

第1回目の講義(2022年4月9日)は、当講座の担当講師である堀井浩之氏、藤井智朗氏(JSIF理事)から講師紹介があった後、堀井氏から「ESG概論①」の解説がありました。

初めに、次世代の子供たちの教育の中で浸透し始めている「SDGs」、そして報道で日々、目にする「ESG」「SDGs」「脱炭素」が急激に増えていること、「ESG」はますます私たちの身近に存在し、年金という資金の流れや自らの業務とどう折り合えをつければ良いのか、この教室で考えていきたいというお話がありました。各々のステークホルダーがどのように行動し、資金がどのような役割を果たし、持続的な社会の結果に結びついているのか、深堀をしてみたいという授業の目的を明確にした上で、本講座では、ステークホルダーが実務に携わる事例等を踏まえて、受講生の研究テーマにとって、ESGやサステナビリティを考慮することがいかなることか、各自の組織に戻った時に各々のゴールにつながるきっかけになることを期待しているとの説明がありました。

「ESG概論①」では、ESGという単語一括りで扱われることが多いが、ESGのヒストリーを知った上で、各々のESGとは何かを考えると良いという話がありました。CSRとESG、ESGとSDGsの整理と、長期投資家にとって、企業価値を見る上で、なぜ重要だと言われているのかという解説がありました。今後の講師によって、よりESGの広がりについて学べると思うが、運用の世界では大きな変化が起きていて、国際機関や国際イニシアティブがプレーヤーとして参入するなど、ステークホルダーを巻き込んだ世界観をまず知って欲しいとの解説がありました。ESGの注目点も地域性や移行性等が影響して、1年前や5年後では大きく変わっているという現状の話もありました。ESGについては、未来に向けた世界観だけでなく、今日の外部不経済的な出来事の象徴と言って良い、パンデミックや国際紛争の問題も合わせて、これからの講義でディスカッションをしながら、色々な事業による企業価値が違うという点も一緒に考えていきましょうという話がありました。

第1回目の講義に向けてアンケートにご回答頂いた受講生の属性は、今回の受講者は、製造業、金融、コンサルティング会社など様々な業種の方々が参加されています。

受講生が講座に関心をもったきっかけとしては、以下の様な声が挙げられました。

  • 社内外でESG等が注目される中、自身の理解を深めたいと考えたから
  • トレンドとなっているESGを深く理解し、今の経営企画や営業といった実務に生かしたい
  • 大きなゲームチェンジの中で、新規事業に生かしてみたい
  • ESG評価やインパクト評価の視点を深めたいと思ったから
  • SDGsやESGの視点から企業価値について、学び、理解をしたい

第1回目に続き、第2回目の講義(2022年4月9日)は、藤井氏から「ESG概論②」の解説がありました。

受講前や第1回講義終了後のアンケートでも学生の関心や意識の高さを感じる声や質問が多かったことから、そうした学生の疑問にも応える形でESGを取り巻く環境でどのようなことが起こっているのか、具体例も交えながら講義を行いました。

ESGが広がったきっかけとして、元国連事務総長のアナン氏の2つの提唱を紹介しました。1999年に企業向けの原則としてグローバルコンパクトが、その後2006年には投資家向けの原則として責任投資原則(PRI)が立ち上がりました。グローバルコンパクトとしての原則を提唱した後でも、大きな不祥事が続いたことなどから、資金の出し手である投資家側からの牽制機能を強めようという動きがPRIに繋がっているものと思われます。PRIは投資家を中心に策定された原則であることから、ESGがリターンを犠牲にするものではないという考え方によって原則が策定されています。現在、これらのイニシアティブの加盟者数は右肩上がりに増えています。

気候変動ではIPCCが科学的見地から気温上昇は人為的なものであると断定しました。世界経済フォーラムでも企業経営者が挙げる将来のリスクとして気候変動関連の項目が上位を占め、ESG課題に注目が集まっています。世界では、2000年代までは環境や労働や企業のガバナンスなど個々の課題は取り上げられてきましたが、これらをまとめてESGとしたことで世の中の課題がより明確になったと思います。今や、環境と社会とガバナンスが企業の社会的責任と言えます。欧州では各ステークホルダーにサステナビリティの考慮を義務付ける動きとなっており、ESGの視点が不可逆的なものになっているという説明がありました。

学生の皆さんは特に気候変動関連の話題に関心を示し、これからはスコープ3をネットゼロにしていく動きが強まるといった説明に対して、企業間で数値が重複するのではないか、中小企業などは算出できるのかといった質問が飛び交いました。

投資家から見たESGやSDGsと投資の関係についても解説がありました。日本政府もESGの観点では、脱炭素宣言やコーポレートガバナンス・コードの策定など、本腰で取り組んでいます。日本再興戦略から始まった投資家向けの原則であるスチュワードシップ・コードや企業の原則であるコーポレートガバナンス・コードの両輪でも、現在ではサステナビリティに関する項目も組み入れられています。

ESG投資を地域別にみると、これまで世界をリードしてきた欧州が規模の点で2020年に米国に逆転されています。日本もJSIFの調査ではESGインテグレーションが加速していて、投資家の意識が高まっていることを示唆しています。ただ、ESG投資は、目的や投資手法、評価のフィロソフィーによっても大きく異なるものになりえるといった説明もしました。評価項目の選び方やマテリアリティの考え方、重みづけでも評価が大きく変わるものであり、価値観の違いは、評価機関のスコアリングの違いにも表れます。運用会社でもESG項目を組み込みながらリターン向上を達成するために試行錯誤している状況との説明が行われました。

また、講義では、ESGの取り組みを通じて企業価値を高めている企業の実例なども紹介されました。いかに企業がステークホルダーとWin-Winの関係を構築し、持続的な関係になっているかといった視点が重要であること、そうした関係を通じて将来のキャッシュフローが高められ、企業価値に繋がっていくという投資家側の視点からの説明もありました。ESGは新たな概念でもあるため、投資家がいろいろと試行錯誤している様子をご説明しました。

なお今年度の講座の要約は、岡田敦が担当致します。

タイトルとURLをコピーしました