ESG投資と非財務情報の重要性

Q1. ESG 投資という考え方はいつ頃からあるのでしょうか?

ESG 投資はESG インテグレーション投資ともいわれますが、環境・社会・ガバナンスの非財務情報と財務情報の両方を考慮する投資です。2005 年頃から、特にUNPRI(国連責任投資原則)が2006 年にスタートしてから、ESG 投資という言葉が広まりました。責任投資は特殊な投資手法ではなく、社会の企業を見る視点あるいは企業にこうあってほしいという社会の要請がいつの時代にもありますが、そうした点を投資の分野で反映したものだという話しを以前にしました。そうした観点で考えると、社会で企業にとって最も重要な課題がESG(環境・社会・ガバナンス)だというグローバルな共通認識が現在はあり、その観点を投資に反映しているのがESG 投資と言えます。現在では世界の責任投資残高の46%でESG インテグレーションの投資手法が採用されています。今後さらにこの比率が高まると考えられます。

また、責任投資でESG 情報を重視するようになったのと平行して、企業の情報開示の取り組み面で、財務情報と非財務情報を統合しようとする統合報告の流れが世界的に広まり始めています。一般的な投資の分野でも非財務情報を考慮することが重要な時代になったことを意味しています。そのため、企業のCSR 情報を投資家が使いやすい情報とすることを目的にしているとも言えます。このように、現在では責任投資といわれる分野と一般的な投資の分野のどちらでもESG などの非財務情報を重視する点で一致するようになっています。差があまりなくなっている状況です。

ところで、ESG 投資という言葉が一般化したのは、このように最近のことですが、40歳代や50 歳代のアナリストやファンドマネージャーからは次のような反応がよくあります。「昔はそうしたことを考えて投資していました。」

Q2.それは興味深い話ですね。なぜ最近では考慮しないようになってしまったのでしょうか? また昔は考慮していたのはなぜなのでしょうか?

理由はいくつかあると思いますが、一番大きな理由は経済成長率が昔と比べて大きく低下したからだと考えています。1960年代には日本も年平均9%、70年代から80年代も平均4%の成長を遂げていました。それが90年代から現在は平均で1%を割れる低い成長率となっています。

こうした低成長の経済では、5年後に存在しているのだろうかと思える企業も多くなっています。ですから企業の業績や株価を予測するにも四半期後、1年後にどうなっているかが焦点となるのも致し方ないように思えます。 一方で年に7〜9%の成長をしていた1960年代70年代には、高成長を遂げる企業が日本にも数多くありました。現在の新興国市場のような状況です。アナリストやファンドマネージャーは、そのような時代にどのような投資をしていたのでしょうか。重要なのは5年あるいは10年後に株価が何倍あるいは何十倍になる企業を探し出すことでした。 こうした点を検討するには財務データだけでは不十分です。ましてや四半期報告書をいくら検討してもほとんど意味がありません。財務データは、企業が事業を行った結果を一時点または一定期間について金銭的に表したものにすぎません。将来の予想を立てるにも、過去の数値を将来に引き延ばす程度のことしかできません。このような方法では3年、5年後を予想するのが限度でしょう。

それ以上先について検討するには、企業の将来へ向けた取り組みや戦略を評価する必要があります。大きく成長する企業を探し出すには、企業が将来に向けてどのような戦略や計画を持ち、取り組んでいるのか、またそうした戦略を実現できる体制があり、十分な人材がいるのかという点が重要でした。 企業が取り組んでいるさまざまな活動、戦略、計画を評価して、将来の企業価値を増大することにつながるかどうかを判断することが重要でした。

Q3.現在のような低経済成長下の日本では、非財務情報はあまり重要ではないということでしょうか?

そうではありません。経済のグローバル化や新興国の台頭などの影響もあり、多くの日本企業がこれまでの企業戦略を変えることを迫られています。

高度経済成長の時代に投資家が知りたいのは、企業がどのように成長する戦略をもっているかという点でした。 現在のような環境下では、大きく変化する世界経済にどのような戦略で対応するのか、あるいは生き残る戦略をもっているかが知りたい点です。

つまり、企業が将来に向けてどのような戦略をとるかという非財務情報は、企業の将来価値や株価がどうなるかを考えるために不可欠な情報であり、いつの時代にも重要な情報と言えます。

荒井勝

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