統合思考の重要性と統合報告

Q1.「国際統合報告フレームワーク案」の公開を受けたセミナーですね。どのような点が参考になりましたか?

フレームワークの内容については別にお聞きになる機会があると思いますので、パネル・ディスカッションで株式会社ローソンの経営戦略ステーション IR マネジャー藤森このみさんがされた話をご紹介したいと思います。統合報告書はまだ完成さてないそうですが、取り組み内容について具体的なお話があり、大変参考になりました。

統合報告に取り組んだきっかけは、新浪社長が3年前のダボス会議に参加した際にサステナビリティについて数々の議論があり、ローソンでもサステナビリティ・レポートを作りたいと指示されたことだったそうです。また東日本大震災時の取り組み経験から、社会インフラとしてのコンビニエンスストアの重要性に気づき、また企業が収益を出しながら社会に貢献することができるはずだという理解が経営層レベルで進んだとのお話がありました。このように社長や経営層・管理者層がサステナビリティや非財務情報、そして統合報告に関心を持つことは非常に重要です。

Q2.社内の理解や取り組みが進むかどうかに、大きく関わるということですか?

そのとおりです。取り組むべきだと思う社員が社内にいても、経営者が理解を示さないとなかなか進みません。

ローソンでは、アニュアルレポートを担当するIR部門、CSRレポートを担当する部署、コンプライアンスリスクの統括部室、経営戦略部室、グローバル視点の海外事業部、ダイバーシティや人権に関わる人事部など、各部署から10名ほどが集まったタスクフォースを作り取り組まれたとのことです。

統合報告書の作成には、その内容から考えて、こうした各部署の協力が必要となりますが、現場レベルでの話し合いで社内の協力を得るのはかなり難しいのではないでしょうか。やはり新浪社長から指示のあった影響が大きいと思われます。

Q3. そのほかにどのような取り組みをされていますか?

統合報告書の読者層をどう決めるか真剣に検討されています。投資家の満足を維持しつつ、より広いステークホルダーに興味のある内容とする、との話をされていました。統合報告フレームワークでは第一の対象を金融資本の提供者としていますが、その他のステークホルダー向けにどの程度の内容を盛り込むか、また別の開示とするのかという課題があります。 また、企業価値創造のストーリー作りへの取り組みには、かなりの時間と労力をかけられたようです。事業内容と社会貢献活動の洗い出しを行い、その意味や価値について検討されています。総合報告フレームワークにある5つの資本との関連づけも大変だったようです。

Q4. 統合報告は、取り組む企業にとってかなりの負担となりますね。

確かに大変な時間と労力を要します。しかし、こうした掘り下げによって、社内で再認識したことも多かったようです。

コンビニエンスストアとして、小商圏でのコミュニティとの対話や顧客ニーズに応えることの重要性。また子育てで時間のない女性や女性の社会進出などとの関わりでは、生鮮食品やファーストフードの提供とナチュラルローソン、宅配ビジネスによる利便性の提供。また店内で提供する入れたてコーヒーは、ブラジルのレインフォレスト認証を取得したオーガニックな豆であり、児童労働に関わらない農園で生産され、またタンブラーの利用によりゴミの削減につながっていること。さらに牛乳や焙煎、エスプレッソマシーンへのこだわりと接客のレベルアップで、女性の来店比率が上がり、スイーツの売り上げが増え、リピーターが増え、顧客満足度と利益も上がったこと。こうしたさまざまな気づきがあったようです。

Q5.自社の事業価値や社会的価値を再認識する機会になったわけですね。

そうですね。さらに、事業活動を統合報告フレームワークにある資本別に掘り下げる試みから、全ての事業活動は、小商圏のお客様ニーズという社会の要望を満たすためにしていること、また人材とイノベーション・ITにより付加価値を高めて商品・サービスを提供することで、人々と町を幸せにすることにつながるとの再認識に至ったそうです。

『私たちは”みんなと暮らすマチ”を幸せにします』というローソングループの企業理念に結びついたわけです。

Q6. 統合報告への取り組みは、外部への報告以上に社内で企業価値を再認識することに大きな意味がありそうですね。

ローソンのように統合報告について真剣に取り組むことは、日々の事業活動や社会貢献活動の意味を再確認し、企業価値を生み出すためになにをすべきなのかという企業戦略を整理するたいへん良い機会となります。さらに社内の各部署を巻き込んで議論することができれば、その結果得た理解・認識を社内で共有することにもつながります。ローソンはこのようなプロセスを経ることで、統合報告で重要とされる統合思考(Integrated Thinking) を社内で実施した好例と言えるでしょう。結果的に『共有価値の創出』(Creating Shared Value)ともなっています。

セミナー修了後に、お話が大変参考になったと藤村さんにお礼を述べるともに、世界の先進的な大企業であっても統合報告が完成型にたどり着くには1、2年単位ではなく、5年、10年かかるとの私見をお伝えしました。統合報告は、企業と投資家また多くのステークホルダーがそれぞれの立場から検討し、試行錯誤を重ねることで完成形に近づき、企業価値を投資家や社会に対して発信する重要な役割を果たすようになると考えています。

荒井勝

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