「SRIとESG投資は違うのですか?」という質問を受けることがあります。「SRIとESG投資は、基本的に同じです」以前は、このように説明していました。SRIは、1920年代の米国でキリスト教的倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業へは投資しないというネガティブ・スクリーニングから始まったと言われています。1960年代から80年代にかけての米国では、ベトナム反戦でナパーム弾製造企業が問題視され、また南アフリカ共和国のアパルトヘイト問題から南ア進出企業に対して株主による反対運動が起きています。この結果として、GMなどの米国企業が南アから撤退しています。2000年代になると、社会問題への 対応に優れた企業を選んで投資するポジティブ・スクリーニングが広がりました。また、2005年前後から、特に2006年の国連責任投資原則(UNPRI)ができて以来、ESG投資という概念が広まりました。
SRIは社会の企業に対する期待を反映した投資
このような歴史をたどると、SRIとは各時代における社会からの企業への期待を、投資行動に反映させたものと考えられます。企業が社会から求められる内容は時代とともに変化します。この結果、SRIも時代を反映して変化します。1920年代あるいは1960年代には、企業を見る目がキリスト教的倫理あるいは社会運動の視点であり、この時代のSRIも、そうした視点を反映したものでした。
こうしたコンテクストで考えますと、最近使われるようになった「ESG投資」という概念は、社会から企業が求められる課題、また投資に当たって考慮すべき課題が、現在では、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に集約されていることを反映したものと言えます。
話を整理してみます。SRIとESG投資は基本的に同じであり、各時代によって企業が社会から求められる課題が変化し、それを反映してSRIも変化する。現在では、企業にとって最大の課題がESGであり、これを反映してESG投資という言葉が使われるようになっている。このように考えられます。
SRIとSEG投資の間の大きな断絶と飛躍
しかし、最近では、次のようにも説明しています。「SRIとESG投資との間には、実は、大きな断絶があり、飛躍があります」現在、世界で起きているESG投資の大きな変化を理解するには、これまでの答えでは不十分だと気づいたからです。SRI投資と呼ばれていたころは、ネガティブ・スクリーニングであれ、ポジティブ・スクリーニングであれ、望ましくない企業あるいは優れた企業という一部の企業だけを対象としていればよく、その範疇からもれた多くの企業は調査・投資の対象となりませんでした。この影響もあり、SRIは普通の投資とは違う、特殊な投資と見られる傾向がありました。またSRIを専門とする一部の調査会社や運用会社にたよる投資となっている面もありました。ところが、現在のように、企業の課題が、環境への取り組み(E)、社会的課題への取り組み(E)、企業ガバナンスへの対応(G)と理解されるようになると、全ての企業がその対象となります。ESGという課題は一部の企業に限られるものではなく、世界の全ての企業に関わる問題だからです。そうであれば、ESG投資も、一部の企業を対象とするのではなく、通常の資産運用において全ての投資対象でESGを考慮する手法として考える必要があります。
荒井勝