EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)のポイント #1(白書2022に掲載)

1.はじめに

持続可能な投資に対する投資家の関心が世界で高まる中、欧州、米国、英国、日本などで、持続可能な投資やESG投資に関するより分かりやすい開示とアドバイスに関する開示規則や提案がなされている。日本でも金融庁が、2022年12月19日に、ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)を公表し、2023年1月27日まで意見を募った。国際的な動き等も踏まえて、ESG投信における「グリーンウォッシュ」の防止を主題としている。

今回は、それらの中でも先行して検討が進んでおり、現状で最も要求の厳しいEUのSFDR(Sustainable Finance DisclosureRegulation)について概要をまとめた。SFDRについての解説は、ウェブサイト上で調べれば数多くあり、筆者も日本語や英語で解説を10件ほど調べたが、投資の分類についての解説が多く、また理解しやすく簡潔にしようとしたためか、重要と思われる部分が省かれていることも多い。特にミニマム・セーフガードとしての主要な悪影響(PAI: Principal Adverse Impacts)と著しい損害を与えない(DNSH: Do No Significant Harm)基準について触れていないことが多い。そのため、個人的にはSFDRの全体像が理解しにくいと感じた。ほかにも調べた結果、SFDRを理解するには、EUのタクソノミーと関連する他の取り組みも理解しないと何を意味しているのか理解しにくいことも分かった。また、一般にはファンド分類を解説するために、第6条、第8条、第9条だけに触れているレポートが多いが、金融機関がSFDRについて最低限どのような対応をする必要があるのか理解するには、当然のことながら他の条項も読まないといけないと痛感した。そこで一般の解説では触れられていない点も調べてポイントをまとめた。

このまとめは、現状で筆者が理解した点についての解説であり、SFDRの条文を一部省略した部分や解説的な文章も付け加えている。また、SFDRも定義をより明確にするため、今後一部改定される可能性がある。正確を期すためにはSFDRなどの原文を参照していただきたい。

SFDR対応について専門的に検討されている専門機関の方々は理解して当然のことであるが、日本国内で今後、開示対応をどうするかという議論をさらに進める上でも、SFDRについてはこの程度の理解がないと充実した議論ができないと考えた。皆さまにも多少とも参考になれば幸いである。また、筆者の理解に間違いがあるとお気づきの方はぜひともご指摘いただきたい。

2.EUグリーンディールとEUタクソノミー、SFDR

EUでは2019年に新欧州委員会が発足し、「EUグリーンディール」を打ち出した。EUグリーンディールは、欧州の経済・社会の在り方を変革しようとするものであり、環境政策の枠にとどまらず、経済・社会政策を含む多面的戦略としての性格を有している。EUが2050年までに気候ニュートラルな初の大陸となり、よりクリーンな環境、より安価なエネルギー、スマートな交通、新しい雇用、高い生活水準を実現することを主な目標としている。

2020年6月には、環境の面から持続可能な経済活動を定義した「EUタクソノミー」を法制化した。2021年7月にはEUタクソノミーに基づく債券発行基準「欧州グリーンボンド基準」の設置規則案を公表・実施しており、経済活動と平行して、資金調達環境の整備にも取り組んでいる。

SFDRは、こうした広範で持続可能な金融枠組みの一部であり、資産運用会社やその他の金融市場関係者にESG報告義務を課すものである。同規則の中核であるレベル1は2021年3月に施行されている。また、これを補完するレベル2(規制技術基準)が2022年4月に公表され、2023年1月1日から施行されている。SFDRは、投資家が十分な情報を得た上で投資に関する意思決定を行えるよう、金融市場参加者(FMPs: Financial Market Participants)に対して、事業体と商品の両方でESG要素がどのように組み込まれているか、自社の持続可能な投資活動を標準的なフォーマットで報告するよう求めている。

3.誰に適用されるのか?

SFDRは、FMPsである事業体(例えば、資産運用会社)と、金融商品(例えば、ファンド)の双方に対して、社会・環境面の開示を義務付けるものである。事業体としては銀行、保険会社、資産運用会社、投資事業者、年金基金管理者、保険や投資のアドバイザーなど12の事業体が列記されている。EU域外の金融機関とそのEU子会社は、EUで提供するサービスに適用される。大規模な組織(平均500人の従業員を抱える組織、または平均500人の従業員を抱える大規模グループの親会社)は、SFDRのすべての開示要求事項の対象となる。

荒井勝

>>>#2へ続く


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