第十一回目となる今回は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) の塩村 賢史氏が「アセット・オーナーから始まる投資バリュー・チェーン」をテーマにお話しくださいました。
第一回目の総論講義にて説明のあったサステナブル投資の生態系の中では、今回は投資家(アセット・オーナー)に当たります。
講義では4つのパートにわけて説明がなされました。
- 自己紹介とGPIFの紹介
- なぜGPIFはESGに積極的に取り組むのか
- これまでの主な取組み
- まとめと今後の課題
についてです。
まず、日本の公的年金の仕組みについてわかりやすく説明された動画により、賦課方式による世代間扶養をGPIFが長期にわたって安定的に支えるための組織であることが示されました。
続いて、投資のバリュー・チェーンにおけるGPIFのアセット・オーナーとしての位置づけと、GPIFの特性が二点あげられました。第一の特徴は、世界最大のユニバーサルオーナーである点です。運用先がほぼ全世界に及び、160兆円を超える規模の年金であるがゆえに、その影響力を鑑みて制約も設けられています。民間企業の経営に過度に影響を与えないよう定めた関係法令およびGPIFの中期目標について説明がされ、運用資産は(一部を除き)運用会社に委託されていることが示されました。第二の特徴は、②超長期投資家である点です。財政検証として、概ね100年間の年金積立金の見通しがなされています。
次に、なぜGPIFがESG投資に積極的かということについて、端的には(分散投資だけでは消せないような)経済全体のリスクを減らして、年金制度を数世代先も持続させるためである点が示されました。「超長期」投資家として、環境・社会問題が金融市場に与える負の影響を減らすことを通じて、経済の持続的な成長を促し、市場全体の底上げを目指すことが長期的なリターンを向上させるとの考えが説明されました。
これまでの主な取り組みとして、インベストメントチェーンの最適化と市場の底上げを目指す具体的な取り組みが説明されました。特に運用の比率が9割と高いパッシブ運用を中心とした新しい取り組み(指数の公募、対話の促進等)や、他のアセット・オーナー、運用会社や企業への良い刺激を与えることを目的としたGPIF自身の積極的な情報開示が進められてきました。
まとめとして、①GPIFの投資収益の持続的な拡大は、経済や資本市場が持続的・安定的に成長できるか否かに事実上依存している点、
②長期的な投資収益の確保のためには、投資先企業のガバナンスの改善に加え、環境・社会問題などの負の外部性を最小化すること、つまりESGの考慮が重要である点、そしてインベストメントチェーンの様々な主体(アクター)との協働が必要である点が示されました。
最も重要なのは投資対象である事業会社が「バリュー」を創り出すことであり、アセット・オーナーはあくまでそれを支える「アクセラレータ」である点、また(年金資金の出し手という意味で)真のオーナーである受給者に代わってその役割を担っているということが理解できました。
ESG投資/スチュワードシップ活動の効果検証や年金制度への理解・金融リテラシーの向上といった観点を初め、多くの質問が受講生から寄せられました。
ESG投資の正しい理解は、投資の理解・年金制度の理解が大前提であるということも学びとなりました。
※執筆担当…御代田有希(JSIF運営委員)